ぼくだけじゃないんだ

どこも悪くないのに出ていかない

出て行って外で仕事するのがイヤ

ここほど居心地のいいところはない

カーテン閉めれば完全に一人になれる

好きな小説もどんどんはかどって

体も心も調子が良くなってくる

だから出て行ってくれて言われる

 

わかっていても離れられない

隣のやつだって同じなんだ

見る限りどこも悪くない

自分でカルテ書いているんだろう

医者はそれを見ているだけの回診

来週には一つ書き終われそう

短編ばかりそろえて気を使っている

いつでも用意はできている態度

 

多少この病院の宣伝にもなる

患者が増えるのは本望でなくても

もしも賞でも取ったなら

小説病院に名称変えなければ

そうなれば胸を張って退院だ

日々のバイタル懐かしく

気づかず手遅れの病に侵され

現実は小説より奇なり何て

 

任侠病院 (中公文庫 こ)
今野 敏 (著)
日村誠司が代貸を務める阿岐本組は、所帯は小さいが、世の中からはみ出た若い者を抱えて、天下に恥じない任侠道を貫いてきた。ところが最近、一部の地元民から暴力団追放の動きが起こり、めっきり肩身が狭くなった。そんな中、今回、組長が持ち込んだのは病院の再建話。

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